2023年11月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Nov. 2023

日本のみなさん、こんにちは。

先月は「乳がん予防月間」でしたので、食習慣を変えることは、マンモグラフィー検診よりもずっと安全で確実な乳ガン対策だということを記しましたが、今回は男性に向けてのお話です。

男性は中高年になると、前立腺ガン予防のために、PSA検査がすすめられます。PSAとは「Prostate Specific Antigen/前立腺特異抗原」の略語で、前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパクです。

一般にPSA値は中高年では4ng/mL以下、若い人は3ng/mLに保つようすすめられます。人間ドックの検査でPSA値が高いと報告され、悩む男性も少なくありませんが、「PSA値の上昇=前立腺ガン」とは限りません。良性前立腺肥大や前立腺炎、さらには一時的に風邪や飲酒、射精でもPSA値は上昇します。

PSA値が10%以上だと、生検(生体検査)を受けることをすすめられます。ところがこの「生検」には不都合が伴います。生検から1か月後、検査を受けたうちの40%の人がEDのトラブルを経験するようになり、しかも6か月後には15%がセックスライフに深刻な問題が生じるといいます。

生検で陽性(前立腺ガン)と診断される可能性は30%で、この数字は年齢とともに増加します。アメリカでは70歳までに陽性と診断される可能性が70%以上にのぼり、前立腺ガンはアメリカ男性の最も多いガンとなっています。

しかし、こうした前立腺ガン対策は、肉体的にも精神的にも多大な負担となるばかりか、長期間にわたって行なわれた多くの科学的研究によって、寿命を延ばすことに役立たないことがすでに証明されています。

これまで40歳以上の男性全員にPSA検査をすすめてきた米国泌尿器科学会は、2013年5月に従来の見解を変更し、もはや誰に対してもこの検査をすすめてはいません。

すでに米国ガン協会は、2010年3月から患者にPSA検査をすすめないよう医師に警告していますし、米国予防医療特別委員会も、2011年10月から、PSA検査は有益どころか有害なのでやめるよう警告しています。

では前立腺ガンを予防するには、どうしたらいいのでしょうか。

幸いなことに、こうした不都合を伴わない安全確実で賢明な「前立腺ガン予防対策」があります。それは乳ガンの場合同様、「食生活の改善」です。

乳ガン同様、PSA値も食生活と密接に関連しています。前立腺ガンは「欧米型の食習慣」(注1)を続けている地域で罹患率が高いのですが、「未精製・未加工のプラントベースの食事」(注2)をとり入れることによって予防可能であることを、複数の研究が裏付けています。

(注1)肉類や乳類などの動物性食品、精製加工された白米・白いパン・砂糖・油などが多い食習慣。
(注2)野菜や野菜、未精製穀物がきわめて多い食事。

今日、「乳製品と肉類の摂取は前立腺ガンの重大なリスク因子である」ということは、完全かつ広範な証拠によって明らかにされているのです。

前立腺ガンと診断された男性が「欧米型の食習慣」を続けている場合、10年以内にガンで死亡するリスクが前立腺ガンではない男性と比べ、2.5倍になるといいます(注3)

(注3)「Cancer Prevention Research」2015 Jun;8(6):545-551

動物性食品の摂取は、血液中の「IGF-1」(インスリン様成長因子)のレベルを上昇させ、ガン細胞の増殖を促進させます(注4)

(注4)「American Journal of Nephrology」 2001;21:331-229.
「Journal of American Dietetic Association」 1999;99:1228-1233.
「British Journal of Cancer」 200083:95-97.

IGF-1は、ちょうどコレステロールが心臓病の予測因子であるのと同様、ガンの予測因子なのです。血液中のIGF-1レベルが正常値より高い男性は、進行した前立腺ガンのリスクが5.1倍も高いといいます(注5)

(注5)「Journal of National Cancer Institute」 2002:94;1099-1109.

また、動物性食品の摂取は、IGF-1の作用を制御し、不活性化するタンパク質「IGF-1結合タンパク質」の血中レベルを低下させてしまいます。

この「IGF-1結合タンパク質」は、IGF-1を不活性化させてガン細胞の増殖を抑制するタンパク質なのですが(注6)、血液中のこのタンパク質のレベルが低いと、進行した前立腺ガンのリスクが9.5倍にもなるのです(注7)

(注6)「Hormone and Metabolic Research」1994;26:81-84.
(注7)「Journal of National Cancer Institute」2002;94:1099-1109.

特に乳製品の摂取と前立腺ガンは密接に関連しています。乳製品を最も多く摂取する人はリスクが2~4倍になるといいます(注8)

(注8)「Epidemiologic Review」2001;23:87-92.

乳製品を3サービング(注9)以上摂取している前立腺ガンの男性は、1日1サービング未満しか摂取していない男性に比べ、10年以内にガンで死亡するリスクが14.1%増加するのです(注10)

(注9)1サービングの量は牛乳では1カップ(アメリカ仕様のカップ)、チーズやヨーグルトではおよそ45グラムです。
(注10)「International Journal of Cancer」2015;137:2462-2469.

また、動物性タンパク質は「活性型ビタミンD」(注11)の生成を抑制してしまいます。このビタミンは免疫力を高く保ち、体のあらゆる機能に関与し、細胞を健康に保ち、さまざまな健康効果を作り出す働きがあります。

(注11)体内に貯蔵されている「貯蔵型ビタミンD」から、必要に応じて体内で生成されるビタミンDで、「貯蔵型ビタミンD」のおよそ1000倍も活発。

また同様に、牛乳の中に見られる「体が必要とする以上のカルシウム」も「活性型ビタミンD」の生成を抑制します。

「活性型ビタミンD」のレベルが低い状態が続くと、さまざまなガンや自己免疫疾患、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症、骨粗鬆症ほかの病気を引き起こす環境を作り出すことになります。

そんなわけで、動物性のタンパク質、そして乳類から体が必要とする以上のカルシウムを摂取することは、IGF-1のガン促進メカニズムとは別のメカニズムで、前立腺ガンを含むあらゆるガンを促進させていくことになるのです。

しかし最近では、プラントベースの食事がPSA値の低下にめざましい効果を発揮することを数々の研究が裏付けています。

プラントベースの食事、運動、ストレスマネージメントや患者へのサポートなどによって、心臓病は克服できることを証明しているカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部臨床学教授で「予防医学研究所」の所長、ディーン・オーニッシュ博士は、前立腺ガンの患者たちを同じ方法で改善できることを明らかにしています。

不都合を伴う生検やさらなる治療ではなく、「食習慣の改善」という選択肢もあるということを、中高年のすべての男性は知っておくべきでしょう。

日本では現在、男性の乳類の摂取量が1950年と比べ15.2倍になっており、それに比例して、前立腺ガン死亡率がなんと104倍に増えています。

『チャイナ・スタディー』の執筆で父親のキャンベル博士に協力したトム・キャンベルは、この本が出版されたあと、医師になる決心をして医学教育を受け、今日ではロチェスター大学医療センターで医師としてめざましい活躍をしているのですが、乳製品について、次のように述べています。

乳類と前立腺ガンの関係には、観察的、メカニズム的、介入的データを含め、これほど決定的な証拠があるのだから、すべての医師は前立腺ガンにかかった男性に、ただちに乳類の摂取を中止し、「未精製・未加工のプラントベースの食事」をとり入れるように言うべきである。(トーマス・M・キャンベル)

最新科学は肉類や乳類が前立腺ガンばかりでなく、乳ガンも含めてあらゆるガンの主因であることを裏付けています。

ガンは日本人にとって、「ナンバーワン・キラー」、つまり「死因No.1」であることを考えたとき、「ナチュラル・ハイジーン」が古くから教えている「未精製・未加工のプラントベースの食習慣」を実践することは、とても賢明な選択となるはずです。

『フィット・フォー・ライフ』『常識破りの超健康革命』『50代からの超健康革命』『女性のためのナチュラル・ハイジーン』『子供たちは何を食べればいいのか』『葬られた第二のマクガバン報告(上巻)』『チャイナ・スタディー』(いずれもグスコー出版)には、なぜ動物性食品が体にとってふさわしくないのか、その理由が詳しく解説されています。

(文責:松田麻美子)