Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Sept 2023
日本のみなさん、こんにちは。
9月18日は「敬老の日」です。毎年「敬老の日」が近づくと、百寿者(100歳以上の高齢者)の数が発表されます。昨年の百寿者の数は9万526人で、百寿者の数は52年連続して増加中だといいます。今年もその記録を更新していくかもしれません。
しかしこうしたニュースを聞くたびに私が思うのは、これらの百寿者のうち、「健康上何のトラブルものなく、介護の必要性もない、という健康な高齢者はどれだけいるだろうか」ということです。
非常に少ししかいないということは想像に難くありません。なぜなら前回のメッセージで記したように、日本人は亡くなる前のおよそ10年は、健康上深刻なトラブルがあったり、介護が必要になる、といわれているからです。
今、60代後半から70代前半の私の友人たちの多くが、自分の両親や義理の両親の介護の問題で大変な苦労を強いられています。認知症や脳梗塞で半身がマヒしている親のケアは施設に預けていても自宅でケアしていても、大変な苦労だといいます。
こうした友人たちから私が耳にするのは、「私はあんなふうに年をとりたくない」という言葉です。
誰もが病気のために不自由が強いられたり、家族に負担をかけたりするような、みじめな晩年を過ごすことなど願ってはいないはずです。幸いなことに、今日ではそのようなことにならない人生を送る方法もわかっています。
しかもそれはとてもシンプルです。そのことを教えているのが「ナチュラル・ハイジーン」の健康理論なのです。
この健康理論に従って、体に必要な「要素」を与えてあげる、ただそれだけのことで、私たちは、亡くなる前のおよそ10年間、さまざまな健康上のトラブルを抱えていたり、介護が必要なみじめな状態で暮らすようなことは避けられるのです。
その要素とは、この欄でも繰り返し記してきた「健康の七大要素」です。これについては『50代からの超健康革命』(グスコー出版)に詳しく解説されています。
これらの要素のうち、特に「体にとってふさわしい食事」を体に与えていれば、スリムダウンや健康診断の数値(血圧、血糖値、コレステロール値、中性脂肪値、尿酸値、肝機能などの数値)の異常、生理痛や更年期障害、喘息や関節リウマチなどの自己免疫疾患、動脈硬化による狭心症などはもちろんのこと、高齢になるともはや避けられないとさえ思われているアルツハイマー病ほかの認知症、パーキンソン病、さまざまなガン、緑内障による失明などとは無縁の人生を送ることが可能です。
そのことは1980年代以降行なわれてきた数々の疫学研究や人を対象にした実験研究によって裏付けられています。英語圏のウェブサイトで検索すると、一生かかっても読み切れないほど膨大な量の情報が出ています。
しかし、日本では、このような情報をメディアも政府の健康関連機関も一般市民に伝えるようなことはしていません。それは医療従事者たちの勉強不足、そしてまた、医療業界や食品業界の利益相反などがあるためだと言えるでしょう。
ですが、特に未精製・未加工の植物性食品で構成された食事(ホールフード・プラントベースの食事)に変えることによって、これらのトラブルを避けることは可能なのです。たとえ60代になってからであっても、遅すぎることはありません。アルツハイマー病でさえ、初期であれば、回復可能であることも、研究が裏付けています。
ただし徹底した食事管理が必要です。「少しぐらいどうということはない」といったいい加減な気持ちでほどほどに食習慣を変えただけでは、病気は進行していきます。そして思いもよらない出来事に遭遇することになります。
高血圧やその治療のための薬による副作用で、60代の後半になると膝や足の痛みで歩くこともままならない状況だった私の父は、徹底した食事転換で、見事にそのトラブルから解放されたのですが、「少しぐらいどうということはない」といった気持ちをコントロールするのが難しく、亡くなる3年余り前に、大変な経験をしています。
父親がイギリス人でロンドンに住む孫(私の妹の長男)が、夏休みに東京の日本語学校で日本語のコースを受講するために2か月余り、祖父の家に滞在していた間、父は「日本人のルーツを持つ孫に日本の文化を教えたい」という理由から、ウナギや天婦羅、とんかつ、お寿司、焼き鳥などの老舗のお店に頻繁に連れて行ったのです。これらの食べ物は、かつて父が大好きで好んで食べていたものでした。
こうした高脂肪・高塩分の食べ物は、目に見えない形で体にダメージを与えていくのですが、かつての大好物との再会による喜びに浸っていた父は、体の調子が思わしくないといった異変には気づいていなかったようです。
さらに孫がロンドンに帰る折にはロンドンまで送って行き、高脂肪・高塩分の動物性食品や高度に精製加工された炭水化物食品中心のリッチなイギリスの食べ物で構成された食事でもてなされる日々をひと月ほど送ったのです。
しかも、翌年の夏休みも孫が日本語を学ぶために来たため、こうした生活を2年にわたって繰り返したのです。その結果、血圧が上昇し、血液もドロドロになり、本人も自覚できるほど、体力が低下していきました。
たまたま日本での講演のために帰国してそんな父を見た私は、すぐに食習慣を以前のヘルシーなものに戻すよう伝えたのですが、すでにかつて好んで食べていた高脂肪・高塩分・口当たりのいい高度に精製加工された食べ物に慣らされてしまっていた父の味覚を改善させることは容易なことではありませんでした。
そして半年後、私が講演のために一時帰国したその日に、父は脳梗塞の発作を起こしてしまったのです。軽い言語障害と体の半身麻痺が生じてしまった父を翌日病院に見舞った時、父はベッドの上で涙を流しながら私に言うのです。
これからのお前の講演会では、どうか私の二の舞にならないよう、ぜひともみなさんにこのことを伝えてくれ。
そして父は続けます。「退院したら今度こそ絶対、お母さん(私の母のこと)が出してくれる食事を徹底的に守り、脱線しないようにするよ。絶対だからね」
ところが皮肉なことに、「ナチュラル・ハイジーン」に基づくヘルシーな食事がしたい、という強い思いから、リハビリも不完全なうちに退院して自宅に戻ってきた父の介護に追われていた母は、真夏の暑い盛りに喉の渇きも忘れていて脱水症を起こし、眠っている間に亡くなってしまったのです。
そのため父は老人ホームに入ったのですが、「血圧やコレステロール値を薬でコントロールし、食物繊維不足がもたらす便秘を下剤で解消させ、車いすに括り付けられていて、リハビリも十分にさせてもらえない」というホームのやり方では、病気を進行させていく一方だと気づき、もっとヘルシーな「ナチュラル・ハイジーン」の食事を実践している妹のすすめで、父はロンドンの彼女の家に引っ越すという一大決心をしたのです。
そこで父が経験した劇的な改善効果はめざましいものでした。降圧剤は1週間ほどで要らなくなり、妹の徹底したリハビリプログラムで、ひと月後には、車いすが不要になったのです。歩行器を使って少しずつ歩行数を増やし、ふた月もすると1日4000歩余り歩けるようになりました。
妹と一緒に広大なショッピングセンターへ買い物に行ったり、パブでヘルシーランチを楽しんだり、孫たちの学校のアクティビティに積極的に参加したり、といった健康的で活発な生活を取り戻したのです。
体はすばらしい「ヒーリングマシーン」です。必要な要素を与えてあげるだけで、驚くべき改善効果を発揮してくれます。ただ気をつけなければいけないのは<ほどほどに>ヘルシーな食事をするのではなく、<徹底的に>ヘルシーな食事をすることです。
父はその違反をしたために、脳梗塞という高い代償を支払うことになりましたが、ヘルシーな食事を遵守(じゅんしゅ)することの大切さを学んだのです。そしてみなさんにすばらしいメッセージを残してくれました。
(文責:松田麻美子)