2023年6月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston June 2023

日本のみなさん、こんにちは。

去る4月22日、東京で私の講演会が開催され、北海道から九州まで、全国各地から200人ほどのみなさんがお集まりくださいました。

参加者の大半は、医師や看護師、セラピストなどの医療関係者、健康食品関連業者、ヘルスコーチ、ローフード教室運営者、教育関連事業者などでしたが、社員全員(30名余り)でヘルシーな食生活に挑戦して半年、すばらしい成果を上げているという製造業経営者もおいででした。

いずれのみなさんも、「食生活と健康・病気」の密接な関係を理解するうえで、「ナチ ュラル・ハイジーン」の理論や欧米の最新栄養学について学ぼうという意欲に燃えている方ばかりでしたが、その中からいただいた下記の質問は、おそらく多くの方にとっても興味ある事柄だと思いますので、ここでシェアしたいと思います。

【質問】動物性タンパク質について、牛乳に含まれるタンパク質「カゼイン」はガンを誘発することが研究によって証明されています。キャンベル博士は、「動物性タンパク質のすべてがガンを誘発する」と述べていますが、博士は、牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵・魚介類についても実験を行なって、ガンの誘発性を突き止めているのでしょうか。

私の回答は、以下の通りです。

ガン誘発性に関してはカゼインに限ることであり、牛、豚、家禽類、鶏卵、魚介などのタンパク質を個別に研究して突き止めない限り、「すべて動物性タンパク質にガン誘発性があるとは言えないのではないか」──これは多くの人が抱く自然な疑問かと思います。

たいていの人にとって、タンパク質、特に動物性タンパク質は、すべての栄養の中で「最も神聖なもの」として認識されていますので、「動物性タンパク質がガンを誘発する」などということは耳を疑いたくなるほど信じがたいことだからです。

『チャイナ・スタディー』の読者からこうした質問を受けたときのために、私は日本語版刊行当初に、キャンベル博士の見解を伺ったことがあります。

キャンベル博士は動物性タンパク質のガン誘発性に関する研究でミルクタンパク「カゼイン」が選ばれた理由として次の2点を挙げていました。

①カゼインに限らず、すべての動物性タンパク質は9種類の必須アミノ酸すべてを含み、アミノ酸の構成が非常に似ていることや、体内での吸収率も97%とほぼ同一のため、どの動物性タンパク質を用いても、同様の結果が得られることが想定できること。

②ほかの動物性タンパク質に比べ、カゼインは最も手軽に入手でき、研究経費がかからないこと。

動物性タンパク質のガン誘発性に関しては、「どの動物性タンパク質で実験しても同様の結果が得られると想定される」というキャンベル博士の指摘の根拠は主に4つあります。

1つ目は、「メチオニン」と呼ばれる必須アミノ酸です。
動物性タンパク質には、その構成要素であるアミノ酸のうち、特に必須アミノ酸のメチオニンが豊富に含まれています。そして多くのガン細胞は、正常細胞とは異なり、成長を続けるために外因性メチオニン(食事から摂取されるもの)に依存していることが明らかにされているのです。

ガンはメチオニンに依存して成長します。研究者たちは1970年代に、メチオニンがないとガンが成長しないことを発見しました。科学者たちはこの現象を「メチオニン依存症」と呼んでいます(※)

(※)J Natl Cancer Inst. 1990 Oct 17;82(20):1628-32
Cancer Res. 1993 Jun 1;53(11):2479-83.

そして動物性タンパク質に含まれるメチオニンの量はほぼ同じです。下記の表は、タンパク質の食品可食部分に含まれる窒素1グラム当たりのメチオニンの量を示すものです。動物性タンパク質は植物性タンパク質に比べ、メチオニン含有量が圧倒的に多いことがわかります。

2つ目の根拠は、動物性タンパク質の摂取は、人の体内のIGF-1 レベルを高め、これがガン細胞の発生と成長を促進してしまうことです。

動物性タンパク質をとりすぎると、体内でIGF-1(インスリン様成長因子1)と呼ばれるホルモンの産生が増加します。

IGF-1 は、胎児期や小児期の成長期には体の重要な成長促進因子の一つですが、人生の後半にはIGF-1 は老化を促進したり、ガン細胞の成長、増殖、拡散を促進したりすることが研究で示されており、IGF-1 レベルの上昇は、結腸、前立腺、乳房などの発ガンリスク上昇に関連しているといいます(※)

(※)・Clin Cancer Res 2008; 14:6364-6370.
・Arch Physiol Biochem 2009; 115:58-71.
・Int J Colorectal Dis 2006; 21:201-208.
・J Natl Cancer Inst 2002; 94:972-980.
・Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2000; 9:345-349.
・J Natl Cancer Inst 1999; 91:620-625.
・Lancet 2004; 363:1346-1353.
・Int J Cancer 2004; 111:418-423.
・Int J Cancer 2009; 124:2416-2429.

3つ目の根拠は、動物性タンパク質は、老化促進のタンパク質「mTOR」を増やし、発ガンリスクを高めていくことです(※)

(※)https://drfranklipman.com/2022/04/04/6-ways-manage-your-mtor-and-show-aging-the-door/#:~:text=Pile%20on%20plants%3A%20Animal%20proteins,stimulate%20mTO R%20nearly%20as%20much.

「mTOR」が増加すると、次のようなメカニズムによってガンは免れなくなります。 細胞分裂の活発化、インスリン抵抗による血中インスリン値の上昇、ガン促進遺伝子の発現促進、血管新生の促進により、ガン細胞に酸素や栄養供給、酸化のストレス促進による細胞へのダメージ、IGF-1 レベルの増加など。

4つ目の根拠として、キャンベル博士は中国での人を対象にした研究を通して、カゼイン以外のどんな動物性タンパク質も、強力なガン促進物質であることを確認していることです。

以上のように、複数の研究がどんな動物性タンパク質にも、ガン誘発性があることを裏付けているため、発ガンリスクを高めるのはカゼインに限らない、ということを知っておいてください。

さらに最近の研究からは、動物性食品の摂取は、動物性食品に含まれるカルニチンやコリンなどが腸内細菌によって有害な物質「TMA」(トリメチルアミン)に代謝され、これが肝臓で代謝されて、「TMAO」(トリメチルアミン-N-オキシド)と呼ばれる炎症性の化合物を作り出し、発ガンリスクを高めていくことも明らかにされています。

「TMAO」は、炎症、酸化ストレスを引き起こし、動脈硬化、心臓血管疾患ばかりか、DNA 損傷からタンパク質の異常な折りたたみ、ガンの発生・転移のリスクや致死率などを高めてしまうのです(※)

(※)J Immunol Res. 2022 Jul 4;2022:7043856.

このように、カゼインに限らず、動物性タンパク質の摂取は発ガンリスクと密接に結びついているのですが、日本の多くのみなさんの脳裏には、健康的な食事とは、動物性食品からタンパク質をしっかり摂取することだという認識が、戦後の学校給食を通して刷り込まれてしまっているので、たとえガンが国民の死因 No.1 であったとしても、動物性タンパク質のガン誘発性を受け入れることは容易ではないかもしれません。

日本のみなさんには「体にとって本当に健康的な食事とは何か」を、『50 代からの超健康革命』(グスコー出版)からぜひとも学んでいただきたい、と願っています。

(文責:松田麻美子)