2022年9月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Sept. 2022

日本のみなさん、こんにちは。

ヴィーガンの食事はライフスタィルのあらゆる段階においても適切である──。 

これは、2016年の「米国栄養と食事のアカデミー」(Academy of Nutrition and Dietetics/元アメリカ栄養士会)のポジションペーパー(公式見解文書)に明記され、その後、世界各国で行なわれてきた研究がこの正しさを裏付けている、ということを前回のメッセージでご紹介しました。

それでも小さいお子さんをお持ちの方の中には、「プラントベース(植物性食品中心)の食事は幼児や子供たちにとっても安全で適切と言えるのか」とご心配される方もおいでかと思いますので、今回はこの点についてお話しさせていただきます。

この30年余りの間に明らかにされてきたことは、下記の2点に要約できます(注1)

①ラクト・オボ・ベジタリアン(肉や魚は食べないが、乳製品や卵は食べるベジタリアン)の子供たちは少なくとも雑食の子供たち同様に成長する。
②ヴィーガンの子供たちは、1~3歳の間は成長速度が遅い傾向があるかもしれないが、それ以降は正常に成長する。
(注1)
・Journal of Clinical Nutrition. 1988,48(3Suppl) 822-825
・European Journal of Clinical Nutrition. 1991;45:5558
・European Journal of Clinical Nutrition. 1997;51:2025
・The Journal of Paediatrics and Child Health. 2001;37(3):247-253
・Nutrition Research. 2008;28(7):430-436
・Nutrients. 2018;11(1):5 
・Nutrients. 2019;11(4)1-8

 

ドイツで行なわれた最新の研究『VeChi Toddler studies』『VeChi Youth Studies』では、「ヴィーガン」「ラクト・オボ・ベジタリアン」「雑食」の幼児(1~3歳)と青少年(6歳~18歳)各400人余りを対象に、栄養摂取量と成長状況を調査、次のことを明らかにしています(注2)

①3つの食事グループにおいて、エネルギー摂取量、あるいは成長に関して著しい相違はなかった。
②すべての食事グループでカルシウムとビタミンDの摂取量が基準値以下で、ヴィーガンの摂取量は最低だったものの、栄養状況はいずれの食事グループも良好だった。ただし、ヴィーガンは食物繊維、ビタミンB1、ビタミンC、ビタミンE、フォレート(葉酸塩)、鉄、亜鉛、マグネシウムの摂取量が最多で、砂糖の摂取量は最少だった。
③研究者らは、「ヴィーガンを含め、ベジタリアンの食事は子供時代および青年期の推奨摂取量を満たしている」と結論づけている。
(注2)
・Nutrients. 2019;11(4):1-18
・British Journal of Nutrition. 2021 Sept;13:1-12
・European Journal of Nutrition.2022;16(3):1507-1520

もう一つ、ポーランドでも2021年に「ヴィーガン」「ベジタリアン」「雑食」の子供たちに関する栄養摂取状況と健康状態が調査されています。この研究は187人の5歳から10歳の子供たちを対象にしたもので、結果を要約すると次のとおりです(注3)

①ヴィーガン食の子供たちは、心臓血管疾患のリスク因子である体脂肪率、コレステロール値、空腹時血糖値がほかのグループより低かった。また、砂糖と飽和脂肪の摂取量が少なく、食物繊維の摂取量は最多だった。
②ヴィーガン食はサプリメント非摂取の場合、カルシウムとビタミンDの摂取量が低いことと関連していた。
③ヴィーガンの子供たちは、ほかの食事グループの子供たちより小柄で、骨密度が低いが、通常の基準値の範囲だった。
(注3)
・American Journal of Clinical Nutrition 2021;113(6):1566-1577

これらの研究結果を踏まえて、18歳までのヴィーガンの子供たちの食事に関して重要なことは、次の3点です。

❶ビタミンB12、カルシウム、ビタミンDを信頼できる補給源から補うこと。
❷食事は過剰に制限しすぎないこと。
❸必要に応じて強化食品やビタミンB12、ビタミンDなどのサプリメントを与えること。

これらの研究から明らかになってきたことは、子供たちにとって、すべての食事が栄養の必要量を満たすよう適切に計画される必要があるということです。

非常に多くの人が、子供たちがジャンクフードを食べていることに関しては悪く思っていません。子供たちはマクドナルドのハンバーガーやソーダ類などを常用しています。ところが、たくさんの野菜や果物を食べる子供たちのことや、ヴィーガン食に関しては父兄の全員が、栄養が十分とれないのではないかと心配しています。

ですから、子供たちの食事について考える際、どのような食事スタイルでも「質」「量」「バラエティー」の3つが正しく考慮されなければならない、ということを子育て中の方はしっかり認識してください。

「質」の点では、プラントベースの食事であっても、摂取するカロリーの中で、抗酸化栄養(ビタミンC、ビタミンE、セレニウムなど)や数々のファイトケミカル類、ビタミン、ミネラル、不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸を、「1対1」から「1対4」の範囲内で)、食物繊維などの要素がとれるよう、未精製・未加工のホールフードであることを重視する必要があります。

これらの要素は、プラントベースであっても、精製加工された食品(砂糖や油、ほとんどの調理済みのパッケージ入り食品など)にはほとんどか、あるいは全く含まれていませんので注意してください。

「量」の点では、子供の胃は小さいので、大人のように一度に多くの栄養をとり込むことができません。ですから、摂取カロリーの中で、栄養濃度の高い食品(果物、野菜、豆類、ナッツやシード類、全粒穀物など)を3度の食事と間食で十分に与える必要があります。

「バラエティー」の点でも、さまざまな食品からいろいろな栄養がとれるよう配慮が必要です。

そして、ビタミンB12やビタミンDなどは、強化食品やサプリメントで補うことも重要です。

こうした点に配慮した食事であれば、プラントベースの食事であっても、幼児期から青少年期に至るまで、必要な栄養は十分に摂取することができます。

プラントベースの食事を具体的にどのようにして与えたらよいのか、という点については、『子供たちは何を食べればよいのか』(電子書籍版/グスコー出版)に詳しく解説されています。

(文責:松田麻美子)