2022年4月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Apr. 2022

日本のみなさん、こんにちは。

アメリカのスーパーマーケットのレジ周辺や空港のキオスクなどの雑誌売場では、このところ色あざやかな「プラントベース・ホールフードの食材」が表紙を飾っている健康雑誌や週刊誌が並び、人目を引いています。

アメリカでは今、「プラントベースのホールフードはヘルシー」という認識が、一般社会に定着しつつあるようです。

「プラントベースで未精製未加工のホールフードは、動物性食品や精製加工食品中心の食事よりもずっと栄養豊かでヘルシーだ」という認識は、100年余りも前から「ナチュラル・ハイジーン」のパイオニアの医師たちが主張してきたことですが、今日では多くの人がその正しさを知るようになってきたということでしょう。

日本では、相変わらず肉類や牛乳、チーズ、卵などの動物性食品と白いご飯や白いパン類、麺類などを中心とした食事が一般的ですが、これらの食品は私たちの健康長寿には役立たないことを、この20年余りの研究が明らかにしています。

『50代からの超健康革命』や『女性のためのナチュラル・ハイジーン』(いずれもグスコー出版刊)に詳しく記されていますので、まだお読みになっていない方はぜひご覧ください。

また、「ナチュラル・ハイジーン」の食事法では、「ローフードは加熱調理よりもヘルシー」であることも重視しています。

「ナチュラル・ハイジーン」という言葉を「ローフード」について学ぶ過程で知った方の多くは、「加熱調理された食品は、酵素、ビタミン、そのほかの栄養素が破壊され
ているので死んだ食べ物だ」と理解しているかと思いますが、食品を生で食べることのメリットには、もっと深い意味があるということをご存じでしょうか。

ある特定の食品には、抗ガン作用のあるファイトケミカルを産生するのに必要な酵素が含まれており、この酵素は噛むことで食品の細胞壁が壊されたときに放出されます。

例えば、アブラナ科の野菜には細胞壁の中にミロシナーゼという酵素があるのですが、その酵素は加熱調理すると、活性を失ってしまいます。

しかし、これらの野菜を生のまま噛むことによって、あるいは刻むことによって、その野菜に含まれるグルコシノレートという成分にミロシナーゼ酵素が働き、そこからイソチオシアネートなどの有益な成分が産生されるのです。野菜を切った場合には、40分ほどおくとミロシナーゼ酵素の働きはさらに高まるという情報もあります。

イソチオシアネートには強力な抗ガン作用がありますが、さらに、実際自己免疫疾患やガンにつながるような遺伝的欠陥の発現防止にも役立ちます。つまり、このような食品を生で食べることで遺伝的欠陥の発現を阻止し、体へのダメージを防ぐことができるのです。

これらの野菜を加熱調理する場合は、まず生の状態でブレンダー(ミキサー)にかけたり、細かく刻んだりすると、ミロシナーゼ酵素が放出され、グルコシノレートと混ざりあって、体外でイソチオシアネートが生成されます。

そのあと、その食品を蒸したり、シチューやスープに使ったりといった方法で調理すれば、その食品の価値が保たれます。水といっしょに加熱する調理では、一度生成されたイソチオシアネートが熱で破壊されることはないからです。

ただし食品を加熱調理する前に細胞壁を壊しておかないと、イソチオシアネートの生成は熱で阻害されてしまうので要注意です。つまり小松菜や青梗菜、芽キャベツなどのアブラナ科の野菜を切らずに茹でてしまったのでは、細胞壁が壊されないうちに加熱されるので、ミロシナーゼ酵素は放出されず、イソチオシアネートは生成されません。

しかし、青菜やブロッコリーをゆでたり蒸したりした場合でも、ミロシナーゼ酵素を含む大根やワサビをおろしたり、あるいはマスタードシードを一晩水に浸して発芽させ、ミロシナーゼ酵素を活性化させたものと合わせて食べることによって、青菜やブロッコリーに含まれているグルコシノレートをイソチオシアネートに変換させることも可能だといいます。

一方、生で食べることが非常に重要な食品もあれば、豆類やキノコ類など加熱したほうが体にとって有益となる食品もあります。加熱調理することで、タンパク質のバイオアベイラビリティ(生体利用効率)や栄養素の吸収率が高められるからです。こうした調理に関する科学を理解していれば、私たちは食品中の栄養を無駄にすることなく調理できます。

次に、『フィット・フォー・ライフ』(グスコー出版刊)をお読みになっている方は、「タンパク質食品は炭水化物食品と合わせない」という<食品の組み合わせの原則>について学んでこられたことと思いますが、今日、「ナチュラル・ハイジーン」の医師たちの間では、この<組み合わせの原則>をあまり重要視していません。

「食品の組み合わせ」が消化や健康上に恩恵をもたらす点に関しては、ある程度の科学的根拠はあるかもしれませんが、その根拠は長期的な健康状態に差が出るほど十分ではないことが明らかになってきたのです。

例えば、「果物は胃が空の状態でとると消化が妨げられない」として、朝食にとるのがベストであり、食後のデザートにするのはNGとされてきましたが、30年余り「ナチュラル・ハイジーン理論」に基づく医療を行なっている医師たちの経験則では、この<組み合わせの原則>に関しては重視する必要はない、としています。

プラントベースの食事をしている限り、デザートに果物を食べることで致命的な健康上のリスク(ガンや心臓病、糖尿病など)に結びつくことはなく、精製された砂糖や小麦粉使用のデザートをとるよりもずっとヘルシーで、健康上のリスクにはならないといいます。

同様に、朝食でオートミールに果物を添えることに対しても寛大で、「ナチュラル・ハイジーン」に基づく病気治療を行なっている滞在型のクリニックでも、ここ10年余り、こうした食事が出されています。

また、「タンパク質食品は炭水化物食品と合わせない」という<組み合わせの原則>に関しても、ナチュラル・ハイジーンのパイオニアの医師たちが主張してきた見解とは異なり、今日では「胃は常に強酸性で、食事に含まれるタンパク質や炭水化物によって、胃の環境が酸性になったりアルカリ性になったりはしない」ことが明らかにされています。

「ナチュラル・ハイジーン」のパイオニアの医師らが教えてきた<食品の組み合わせの原則>の科学的根拠として今日にも通用するのは、もし一回の食事であまりにも多くの種類を食べると、一般的に食べすぎや消化不良の原因となるという点です。

そのほか、ハイジーンのパイオニアの医師たちが教えてきたことでアップデートを要するものは、タマネギ、ニンニクのような刺激性の強い野菜やスパイス類(ローズマリー、オレガノ、ターメリック、チリパウダーほかの香辛料)に関することです。

私がハイジーン理論を学んでいた1990年代初め、こうした食品は刺激物なので避けたほうがよいとされていましたが、この20年余りの間に導かれた栄養生化学や疫学、臨床医学などのさまざまな研究結果は、「スパイスや刺激性の強い野菜は体に悪い」という見解を支持していません。

それどころか、ローズマリーやターメリックなどのスパイス、そしてネギやニンニクなどには、すばらしい抗酸化作用・抗炎症作用・抗菌作用などを発揮するファイトケミカルが豊富であることがわかってきたのです。

さまざまなスパイス類やネギ類やニンニクなどを常用している人は、ガンになる率が低く、寿命も長いことを、大多数の人を対象に長期間にわたって行なわれてきた複数の研究が明らかにしています。

特にタマネギは、野菜の中でも「最も強力な抗ガン剤」の一つといえるほど、抗ガン作用を発揮するという研究結果が出ています。

また、チリパウダーやカイエンペッパーのような辛いスパイスの使いすぎは、舌ガン、咽頭ガン、胃ガンなどのリスクを高めてしまいますが、少量であれば、これらに含まれるファイトケミカル「カプサイシン」にある、①血管を拡張させ血圧を下げる、②コレステロール値を下げる、③アドレナリンの分泌を促し、代謝をよくする、④体温を上げて発汗を促し、脂肪を燃焼させる、などの効果が期待できます。

(文責:松田麻美子)