2020年9月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston September 2020

日本のみなさん、こんにちは。

日本では最近、多くの医師が「糖質制限ダイエット」や「ケトジェニック(ケトン体)ダイエット」「MEC(肉・卵・チーズ中心)ダイエット」などをすすめていると聞きます。これらは、肉・魚・乳類・卵などの動物性食品を中心にして、糖質を含む炭水化物食品を大幅に減らすという食事法です。

一方、私が住むアメリカといえば、去る8月13日に「米国医師会(AMA:American Medical Association)」が「アメリカ人のための食事指針(ダイエタリー・ガイドライン)」の2020年度版作成のための諮問委員会にあて、次のような要望書を提出しています。

「2020年度改訂版では肉類と乳類を<必須食品>とすることなく、<任意食品>、つまり選択肢の一つとして提示することを要望します」

「アメリカ人のための食事指針」は農務省と保健福祉省が5年ごとに改定しているものですが、米国医師会は、この要望書の中で「乳類・加工肉・赤身肉の摂取」と「前立腺ガン・結腸ガン・直腸ガンならびに心血管疾患のリスク」の関係を示し、特にアフリカ系アメリカ人にとってこれらの病気リスクが高まる、と勧告しています。

米国医師会が諮問委員会に送った要望書は、「当医師会は、異なった文化を持つ人々に配慮したガイドラインを支持し、肥満や冠状動脈性心臓病、ガン、脳卒中、糖尿病などの有病率は人種や民族によって差があることを理解しています」と述べたうえで、さらに次のように記しています。

「乳類および肉類は必要不可欠な食品ではないにもかかわらず、食事指針では推奨食品とされていますが、今回の改訂において<推奨食>でなく、<選択可能な食品>に改めるよう要望します」

さらに同医師会は、農務省および保健社会福祉省に対し、「子供たちが牛乳ではなく代替品として豆乳などを容易に選択できるよう、全国学校給食法の改正」を提案しています。

「責任ある医療を推進する医師会」会長および米国心臓病学会特別会員のニール・バーナード医学博士は、『Your Body in Balance:The New Science of Food, Hormones, and Health(バランスのとれた体:食品・ホルモン・健康の新しい科学)』など、多くの「食と健康」関連本の著者としても知られる医師ですが、次のように述べています。

「近年、米国医師会では、食べ物の問題やプラントベースの食事が特に重要であると主張する多数のメンバーの意見を反映して、健康的な食生活の力強い推進者になりつつある」

現在の米国政府の「食事指針」は、8オンス(約227グラム)の低脂肪の乳類を毎日3回(または3種類)摂取することを推奨していますが、『The New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン)』誌(2020年2月号)に掲載されたハーバード大学の再調査によれば、どうしてそれが推奨されるのか、その理由となるような材料はほとんど見つからなかったといいます。

乳糖不耐症(注1)は世界中でよくみられる体のトラブルです。世界全体の比率からすると、離乳後に乳糖を完全に消化できる成人はおよそ35%にすぎません(注2)。

『The LANCET Gastroenterology & Hepatology(ランセット胃腸病学&肝臓学)』(2017年7月号)に発表された研究によると、下痢やほかの胃腸症状を引き起こす可能性がある「乳糖吸収不良」が世界人口の68%で発生している(注3)といいます。

(注1)乳糖(ラクトース)を体内で適切に消化(分解)できないために生じるトラブルで、主に消化不良や下痢などの症状を呈する。ヒトを含むほとんどの哺乳動物は、離乳すると乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が低下するため、乳糖を分解できないが、ヒトの場合、およそ65%、特に東アジアの人々では70~100%の人が乳糖不耐症といわれている。

(注2)『PLOS ONE』(2015; 10(4):)

(注3)〔https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S2468-1253%2817%2930154-1〕

昨年1月、カナダ政府が「新フードガイド」を発表しましたが、乳類は含まれていません。上記のような状況を踏まえたうえでの「新フードガイド」なのだと思います。

カナダの「新フードガイド」は写真のようにプレート(お皿)で示されていて、その半分は果物と野菜で占められています。そしてプレートの4分の1がタンパク質食品です。

肉・卵・魚などの動物性食品は、タンパク質食品中の選択肢の一つにすぎません。種実類、豆類、豆腐などの高タンパクの植物性食品を選ぶこともできます。残りの4分の1のプレートは炭水化物食品ですが、白米、白いパンなどの精製炭水化物食品ではなく、未精製未加工の全穀物で構成されています。

カナダ保健省「栄養政策&促進」局長、ハサン・ハッチンソン氏は、次のように述べています。

「従来のフードガイドに対し、肉業界や乳業界に媚びているのではないか、という批判が以前からありました。新しいガイドラインを作成するにあたり、我々は食品業界の資金提供による研究報告は利用しないようにしました」

新たなフードガイドはプラントベースの食事をしている人々から拍手をもって迎えられていますが、酪農業界からは「酪農家を困窮させるものだ」といった批判の声も上がっています。

トロント大学教授で、「血糖指数」の考案者として日本でも知られるデヴィッド・ジェンキンズ博士は、カナダの新ガイドラインを高く評価し、次のように賛同しています。

「完璧とは言えないものの、このガイドラインはプラントベースへと向かっている。これこそ私たちが向かうべき方向だ」

近年カナダでは、環境問題、健康・倫理面などの観点から多くの人が動物性食品の摂取量を減らす傾向にあるため、この「新フードガイド」は、時宜を得た内容だと思います。