2022年11月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Nov. 2022

●日本のみなさん、こんにちは。

前回、豆類や未精製の全穀物にはタンパク質が豊富に含まれていて、常用していれば「プラントベースの食事」でもタンパク質不足にはならない、ということを記しまし た。今回はその続きになります。 

●「プラントベースの食事」からタンパク質を摂取するために、みなさんに知っておいてほしいことがあります。

次のようなケースでは、必要なタンパク質量を摂取することができません。

◆摂取障害(拒食症)、病気、食料不足といった理由で、カロリー摂取量が不十分な場合

◆バランスのとれていない次のような食習慣の場合

・高脂肪・高糖のジャンクフードの食習慣

・ご飯とお味噌汁と加熱調理した野菜のおかず1品だけの食習慣

・トーストとお茶だけの食習慣

・フルーツだけの食習慣(フルータリアン)

◆タンパク質必要量の「増加分」を満たしていない場合
カロリー摂取量が少ない人、あるいは食欲のない高齢者、そして、つわりのある妊婦や授乳中の女性などは、一般の人よりもタンパク質を余計にとらないと必要量を満たすことができません(その理由については、前回の新着メッセージをご参照ください)。該当する人は、豆類や種実類(ナッツ&シード)を意識してとるようにし、「増加分」を加えたタンパク質必要量を満たすようにします。

●もう一つ、「プラントベースの食習慣」に関して明らかにしておきたいことがあります。それは「植物性タンパク質は不完全タンパク質なので、完全タンパク質の動物性タンパク質のほうがすぐれているのではないか」という懸念です。

完全タンパク質とは、細胞の形成や筋肉の修復に必要な9種類の必須アミノ酸がすべて含まれているタンパク質のことで、動物性タンパク質はこれにあたります。一方、植物性タンパク質は、必須アミノ酸のうちいくつかの量が不足しているため、不完全タンパク質と定義されています。

しかし、だからといって、「植物性タンパク質のほうが動物性タンパク質より劣っている」とはいえないし、完全タンパク質だからといって「動物性タンパク質が人間の身体にとって完璧である」ということにはなりません。理由は次のとおりです。

【植物性タンパク質が動物性タンパク質に劣っていない理由】

すべての植物性食品には体では合成できない9種の必須アミノ酸のすべてが含まれているので、量的に不足している必須アミノ酸があったとしても、バラエティーに富んだ食事から必要なカロリー量をとっていれば、不足分の必須アミノ酸を植物性食品同士で十分に補い合うことができます。

植物によっては、リジン(リシン)、ロイシン、メチオニンなどの必須アミノ酸含有量が、タンパク質1グラム当たりの必要量(※)と比較して少ないものもありますが、次の点に留意すれば、必須アミノ酸を十分に摂取することは容易です。

・十分なカロリーをとること。

・バラエティーに富んだ植物性食品をとること。

・リジン、ロイシン、メチオニンなどを多く含む食品(豆類、種実類など)を混ぜること。

(※)米医学研究所によると、1グラムのタンパク質を食べるごとに、リジンは51ミリグラム、ロイシンは55ミリグラム、メチオニンは25ミリグラム必要だといいます。そのほかの必須アミノ酸に関しては、どの植物性食品も必要量を満たしていますが、上記3種だけは、必要量に満たない食品もあります。

たがって、必須アミノ酸を摂取するという点では、植物性食品が動物性食品に劣るとはいえないのです。しかも、必須アミノ酸を植物性食品から摂取する際には、動物性食品に含まれている有害な物質をとり込むこともありません(詳細後述)。

必須アミノ酸は植物自身によって作られるものであり、私たち人類はもちろんのこと、牛も豚もニワトリも、そしてほかのどんな動物も、必須アミノ酸を作ることはできません。動物性タンパク質に必須アミノ酸が含まれているのは、動物がさまざまな植物を食べ、そこから体に必要な必須アミノ酸をとり込んでいるからです。

【動物性タンパク質が人間の身体にとって完璧でない理由】

動物性タンパク質をとり込むため動物性食品をより多く食べることによって、体に有害な物質を多数とり込むことにつながり、ガン、心臓血管疾患、糖尿病ほか、さまざまな病気を引き起こすリスクを高めていくことになるからです。

みなさんはタンパク質の「良質」の意味を正しく理解しているでしょうか。この「良質」とは、タンパク質が消化されたとき、体内で合成するための利用効率の高さを示しています。

動物性タンパク質のほとんどは、体が必要とする適切な量のアミノ酸を含んでおり、しかもそのアミノ酸の構成が、人体のタンパク質構成と似ているため、体が自分のタンパク質を合成するときに非常に効率良く機能するので、動物性タンパク質は「良質」とされているのです。

しかし、タンパク質の効率が健康な体をもたらすわけではありません。前述のように、動物性食品をタンパク源とすることで、体にとって有害な物質がとり込まれ、あるいは体内で産生されることになるのです。

●タンパク源としての動物性食品がもたらす有害物質は、次のようなものです。

・体が必要とする以上の脂肪(そのほとんどは体にとって有害な飽和脂肪)

・コレステロール(体は必要なコレステロールを体内で合成しているので、食事からとり込めばとり込むほど有害)

・IGF-1(インスリン様成長因子)ガン細胞の成長までも促進させる。

・Nグリコリルノエラミン酸(Neu5Gc/体内では産生されない糖分子)慢性の炎症を引き起こす。

・TMAO(トリメチルアミンオキシド/TMA(トリメチルアミン)が、肝臓によって代謝されて生じる炎症性の物質)動脈硬化、心臓血管疾患、ガンの発生・転移のリスクや致死率などを高めることが明らかにされている。TMAは、動物性食品の摂取で腸内に「グラム陰性菌(好ましくない細菌)」が多く産生され、この細菌が動物性食品に含まれるカルニチンやコリンを分解して産生される。

・ヘム鉄(植物性食品に含まれる非ヘム鉄と違って、活性酸素を発生させ、血管や脳などの組織にダメージを与えて炎症を引き起こし、心血管疾患、ガン、糖尿病、関節リウマチ、アルツハイマー病などのリスクを高めていく)

・複素環アミン(発ガン性物質)焼く・揚げる・炒めるなど、肉を高温加熱することで発生。

・AGE(終末糖化産物。体内にとり込まれた過剰なタンパク質が体内の糖分子と結びついて生成される老化促進物質)

植物性食品をタンパク源とするときには、上記のような有害物質をとり込むことも、発生させることもありません。動物性食品からタンパク質をとり込むことより、ずっとヘルシーな選択といえます。

●最後に、「プラントベースの食習慣」でタンパク質摂取量を増やすための方法(メニュー構成)をご紹介します。

◆毎食事、タンパク質に富む食品を、少なくとも1皿用意すること。

・豆類(大豆・枝豆・インゲン豆・小豆・ヒヨコ豆・レンズ豆ほか)

・豆腐/高野豆腐など

・納豆やテンペなどの大豆の発酵食品

・ヴィーガンミート(大豆ほかの豆類を原料にした肉の代替食品)

・ピーナッツバター

・セイタン(グルテンミート/日本では「麩(ふ)」と呼ばれているもの)。

(※)「セイタン」の語源は「True Protein」(正しいタンパク質、正式のタンパク質)→「セイタン」から来ています。

◆おやつにタンパク質を多く含むものを選ぶこと。

・ナッツ&シードなど(30グラム程度)

・くし形に切ったリンゴにピーナッツバターを塗ったものは、誰にとっても最高においしいおやつです。

◆1カップ中6~8グラムの植物タンパクを含む「プラントベースミルク」(植物由来のミルクで、欧米では「Plant Milk」と呼ばれている)を選ぶこと。

※アメリカで市販されている大豆・スプリットピー(2つ割りにした乾燥エンドウ豆)、グリーンピースなどの植物性ミルクには、1カップ(240ミリリットル)中、メーカーにもよりますが、7~9グラムのタンパク質が含まれています。日本の豆乳だと240ミリリットル中に8.64グラムのタンパク質が含まれていることになります(「8訂食品成分表」より算出)。

●以上のことを心得ていれば、「プラントベースの食事で」も必要なタンパク質を確実に摂取できること、また、植物性タンパク質は動物性タンパク質よりも劣るどころか、ずっとヘルシーなタンパク質であることが、おわかりいただけたことと思います。

(文責:松田麻美子)