2022年10月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Oct. 2022

日本のみなさん、こんにちは。

肉や魚を含まない食事ではタンパク質が不足する──日本では、こう思っているみなさんがまだ数多くいらっしゃるのではないでしょうか。

こんなことを思い浮かべてみてください。ゴリラは肉を食べませんが、筋肉隆々で非常に力持ちです。ゴリラに限らず、象やカバ、サイなど地球上で最重量クラスの哺乳動物たちは、大きな筋肉を作るための十分なタンパク質を、実は「植物」からとっているのです。

私たち人間の体にとって必要なタンパク質とは、植物性食品からの摂取だけで本当に足りるのか、そして、たくましい筋肉は本当に作られるのか、今回はそのことについて検証します。

私たちは1日にどれくらいのタンパク質が必要なのでしょうか。【表1】はタンパク質摂取の推奨量を年齢別に表わしたものです(注1)。体重1キログラム当たりの推奨量は、個人の体重によって変化するので、個々の計算が必要となります。

(注1)Dietary Guidelines for Americans 2020-2025

体重1キログラム当たりの推奨量(1日)は年齢が増加するにつれて少なくなり、成人では男性も女性も「0.8グラム/日」ですので、体重70キログラムの男性の推奨量は56グラム(=0.8×70)、57.3キログラムの女性は45.84 グラム(=0.8×57.3)です。なお、妊娠中や授乳中の女性はこれより多少多めになります。

アスリート(運動選手)の場合、「米国栄養と食事のアカデミー」「カナダ栄養士会」「アメリカスポーツ医学会」が提唱する推奨量は、体重1キログラム当たり「1.2~20グラム/日」なので(注2)、一般人よりも1.5~2.5倍増量となります(トレーニングや競技の種類によっても異なります)。

(注2)「Journal of Nutrition and Dietetics」2016 March;116 (3):501-528

また高齢者の場合も、成人より多めのタンパク質が必要になります。高齢者はタンパク質の消化率や合成率が低下し、筋力が減少するからです。一般的に体重1キログラム当たり1.2グラム程度の摂取が筋肉の減少を抑えるといわれています(注3)

(注3)「Nutrients」2015;7(8):6874-6899

ただし高齢者の場合、この量のタンパク質を摂取することは容易ではありません。多くの人にとってカロリー摂取量が減少するからです。

体重1キログラム当たり1.2グラムのタンパク質が必要な体重75キロのアスリートや高齢者の場合、1日およそ90グラム(=1.2×75)のタンパク質が必要となります。

1グラムのタンパク質カロリーとは4キロカロリーですから(注4)、1日3000キロカロリー摂取するアスリートの場合、90グラムのタンパク質カロリーは、90グラム×4キロカロリー=360キロカロリー となり、これは3000キロカロリーの12%に相当します。

(注4)栄養素1グラム当たりのカロリー量は、タンパク質が4キロカロリー、脂質は9キロカロリー、炭水化物は4キロカロリーです。

この数値は、アメリカの生理学者ウィルバー・オリン・アトウォーター氏(1844 ~1907)が、さまざまな食べ物を分析した結果から導き出した「アトウォーターのエネルギー換算係数」の平均値として世界的に用いられているものです。

同様に、1日1800キロカロリー摂取する高齢者の場合、90グラムのタンパク質は、総摂取カロリーの20%になります(90グラムのタンパク質は360キロカロリーなので、これは1800キロカロリーの20%に相当します)。この量は一般成人の推奨量よりも多いので、プラントベースの食事をしている高齢者は豆類などの高タンパク食品の摂取量を増やすようにします。

また、「プラントベース&ホールフードの食事」をしている人も、タンパク質摂取量を増やす必要があります。植物性食品の細胞壁がタンパク質の消化率を低下させるためです。

年齢によって、下記のように摂取量を増やすことがすすめられます。
● 2~6歳の子供 ───20~30%増やす (摂取すべき推奨量:17~23.8グラム)
● 7歳以上の子供───15~20%増やす(摂取すべき推奨量:123.9~39.9グラム)
● 成 人 ───10%増やす(摂取すべき推奨量:男62グラム/女50グラム)
● 妊娠/授乳中の女性───10%増やす(摂取すべき推奨量:78グラム)

ただし、プラントベースでも食物繊維が少ない食事(豆腐、大豆などの植物性の代用肉製品、ピーナツバターなど)をしている人の場合は、摂取量を増やす必要はありません。また、卵や乳類を日常的にとっている乳卵ベジタリアンの場合も同様です。

タンパク質の摂取量を増やすには、タンパク質の消化率を高めるのも効果的です。次のような方法があります。
①浸水・発芽・発酵・加熱調理などでトリプシン阻害剤(タンパク質分解酵素の働きを阻害する物質)やレクチンなどの栄養阻害因子を減らすことによる方法。
②食物繊維を構成する粒子を小さくすることによる方法(粉末にしたり、ミキサーにかけたり、そのほかの食品加工法で)。
③精製して食物繊維を取り除くか減らすことによる方法。

食品の消化率ですが、白い小麦粉かパン、大豆からの抽出タンパク、ピーナッツバター、豆腐、全粒粉または全粒粉のパンなど植物性食品の場合は92~96%で、これらは動物性食品(卵、乳類、牛肉や魚)の94~97%とそれほど相違はありません。

ただしオートミールが86%、レンズ豆84%、そのほかの豆類が72~89%なので「プラントベース&ホールフードの食事」をしている人の場合は、一般の食事をしている人の推奨量よりもタンパク質の量を増やすことがすすめられています(【表2】参照。子供は15~30%の増量、ティーンは15%の増量、成人は10%の増量)。

以上を整理してみると、必要とされるタンパク質の平均的摂取量は、一般男性56グラム、一般女性46グラムですが(【表1】参照)、先述のように「プラントベース&ホールフードの食事」をしている人は、食物繊維による吸収率の低下を考慮して、10%の増量(男性62g、女性50g)となります。

実際、各国(フランス、アメリカ、イギリス、ベルギー、デンマーク、ドイツ、フィンランド)のタンパク質摂取量を調査した研究によると、肉食者の摂取量は、平均92グラム、ベジタリアンは76グラム、ヴィーガンは72グラムとなっています。いずれも推奨量よりもはるかに多くとっていることになります。

残念ながら多くの人が、プラントベース食のどこからタンパク質をとるのかをよく理解していません。ですが、大豆1/2カップには15グラム、豆腐1/4カップには10グラム、ベジミート(大豆を原料に肉に似せて作られた加工食品)60グラムには10~15グラムのタンパク質が含まれているのです。これは60グラム中の赤身肉、家禽類、魚のタンパク質含有量10~15グラムとほとんど同量です。

ほかのプラントベース食でも、1/2カップのレンズ豆には9グラム、1/2カップのそのほかの豆類には7~9グラム、1カップの豆乳には6~8グラム、大さじ2杯のヘンプシードには6.5グラムのタンパク質が含まれていますから、これも、1カップの牛乳(脂肪分2%)に含まれるタンパク質の量(8グラム)、30グラムのチーズに含まれる量(7グラム)、卵(大)に含まれる量(6グラム)とほとんど変わりません。 

ほかにも、加熱したカムート(カムット。デュラム小麦の祖先で、品種改良していない古代小麦の一種)1/2カップには5~6グラム、カボチャの種大さじ2杯には5グラム、加熱したアマランス1/2カップには5グラム、加熱した1/2カップのキヌアには4グラム、ほとんどのナッツ類大さじ2杯には2.5~4グラム、加熱したオートミール1/2カップには3グラムのタンパク質が含まれていますから、これらの食品を常用していれば、タンパク質の摂取量を十分満たすことができるのです。 

(文責:松田麻美子)