8月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston Aug. 2022

日本のみなさん、こんにちは。

前回と前々回では、人間の体にとって生理機能や構造の面で最もふさわしい食事とは、プラントベースの食事(植物性食品で構成された食事)であることをお話ししました。今回はその食事が「栄養の点で適切なのか」を見ていくことにいたします。

「米国栄養と食事のアカデミー」(Academy of Nutrition and Dietetics/元アメリカ栄養士会)のポジションペーパー(公式見解文書)には、次のように記されています。

適切に計画されたベジタリアンやヴィーガンの食事は、健康的で栄養的にも十分で、健康上の利点があり、特定の疾患の予防や治療にも効果がある。さらに妊娠中、授乳中、幼児期、児童期、青年期、スポーツ選手など、ライフスタイルのあらゆる段階においても適切である。(Journal of Academy of Nutrition and Dietetics. July 2016:110:1970-1980)

ヴィーガン、ラクト・オボ・ベジタリアン(卵乳菜食)、雑食者(非ベジタリアン)の食事の「栄養価の高さと食事の質」に関しては、多数の研究が行なわれており、このポジションペーパーが発表されて以来行なわれてきた数々の研究が、同アカデミーの見解をさらに強固なものにしています。

しかし、日本のみなさんの多くは、こうした研究結果に触れる機会がほとんどないのではないでしょうか。そのため、「私たちの体にとってふさわしい食べ物は植物性の食品だ」とするナチュラル・ハイジーンの食事プログラムでは、十分な栄養がとれないのではないか、と危惧している方も少なくないかと思います。

そこで今回は、ヴィーガンとラクト・オボ・ベジタリアンと雑食者の食事について、「栄養的に適切か」「食事の質はどうなのか」の2点に関する直近10年間に行なわれてきた3者の比較研究を大規模なものから小規模のものまで9件ご紹介したいと思います。

①フランスで2017年に行なわれた9万8823人対象の研究
・ラクト・オボ・ベジタリアンとヴィーガンの食事は最もすぐれたマクロ栄養素(炭水化物・脂肪・タンパク質の3大主要栄養)源であり、質の点でもベストだった。
・ヴィーガンは食物繊維の摂取量が最も多く、飽和脂肪、甘い飲み物、精製砂糖入りの食べ物などの摂取量が最も少なく、12種のマイクロ(微量)栄養素の摂取量が最多だったが、カルシウムとビタミンB12は所要量を下回っていた。
・ビタミンDの摂取量はどのグループでも少なかった。

②アメリカで2013年に行なわれた7万1751人対象の研究
・ヴィーガンは、食物繊維、ビタミンC、カリウム、マグネシウムの摂取量が最多。
・ビタミンDを除き、どのグループも栄養上の不足はなかったが、ビタミンDはどのグループでも摂取量が少なかった。

③イギリスで2016年に行なわた3万251人対象の研究
(EPIC-Oxford Europe Investigation into Cancer and Nutrition/オックスフォード大学が構成したガンと栄養に関する欧州前向き調査。)
・ヴィーガンは食物繊維、ビタミンC、ビタミンE、フォレート(葉酸塩)マグネシウム、鉄、銅の摂取量が最多で、心臓代謝系で最大の恩恵を受けていたが、85%余りのヴィーガンがビタミンB12とヨウ素の摂取量が低かった。

④ベルギーで2014年に行なわれた1475人対象の研究
・ヴィーガンはヘルシーインデックス(健康的な食事指数)(注1)、地中海ダイエットスコア(注2)ともに最高値を示していた。 

(注1)健康的な食事指標とは、一連の食品が「アメリカ人のための食事ガイドライン」の主要な推奨事項にどの程度合致しているかを評価するために使用される食事の質の指標。
(注2)地中海食に準拠している程度を示すスコア。穀類、豆類、果物、野菜、魚介類の5つの食品群で摂取量が平均値よりも高い場合に1点として加点、肉類は平均値より少ない場合に1点加点、「一価不飽和脂肪酸÷飽和脂肪酸」の割合が平均値よりも多い場合に1点加点するなどして集計。9点が満点。

・上記2点について雑食者の評価は最低だった。
・ヴィーガンの総脂肪、飽和脂肪、及びナトリウムの摂取量は最低で、食物繊維の摂取量は最多。過体重の割合は雑食者の1/2、肥満率は1/4だった。

⑤デンマークで2015年に行なわれた1327人対象の研究
・ヴィーガンの食事はノルウェー栄養勧告に近く、ヨウ素、セレニウムを除き、必要な栄養量を満たしていたが、女性はビタミンAの摂取量が少なかった。

⑥ドイツで2022年に行なわれた258人対象の研究(世界最新のデータ)
・ヴィーガンはカルシウム、総脂肪、飽和脂肪、コレステロール、砂糖の摂取量が最も少なく、食物繊維、ビタミンA(レチノール当量)、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、フォレート(葉酸塩)、マグネシウム、鉄の摂取量が最多だったが、ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム、亜鉛の摂取量は、推奨量よりも少なかった。

⑦スイスで2017年に行われた206人対象の研究
・すべての食事パターンが栄養的には満点だった。
・ヴィーガンのビタミンD、ビタミンB12、カルシウム、亜鉛が所要量を下回っていたが、ビタミンB12のサプリメントをとっている場合は、B12状況は良好だった。

⑧ドイツで2020年に行なわれた72人対象の研究
・ヴィーガンは食物繊維、フォレート(葉酸塩)、ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンKの摂取量が最多で、ビタミンB12、ビタミンD、鉄の状況はほかのグループと変わらなかったが、ヨウ素の摂取状況は少なかった。

⑨フィンランドで2016年に行なわれた41人対象の研究
・ヴィーガンは脂肪酸プロフィール(オメガ3脂肪酸・オメガ6脂肪酸・飽和脂酸の割合)がより好ましく、食物繊維、ファイトケミカルの摂取量が多いが、ビタミンB12、ビタミンD、ヨウ素、セレニウム摂取量が不十分だった。

以上の研究を総括すると、次のようになります。
●十分に吟味された食事であれば、ヴィーガン、ベジタリアン、雑食ともに栄養所要量を満たしている。
●ヴィーガンは一般的にフォレート(葉酸塩)、ビタミンC、ビタミンK、ビタミンE、鉄、カリウム、マグネシウム、銅の摂取量が最多。
●ヴィーガンで栄養が不十分なのは、ビタミンB12、カルシウム、ヨウ素、亜鉛。
●不足がちな栄養は信頼性の高い供給源から補う必要がある。

これらの研究から明らかになった最も重要なことは、全体的に見て、栄養の質の点ではヴィーガン食が一番だということです。

理由は総脂肪量、飽和脂肪量、砂糖、揚げ物、ナトリウム(塩)、高度に精製加工された食品の摂取量が全グループ中最低で、食物繊維、ファイトケミカル、野菜、果物、マメ類、全粒穀物、ナッツ、シードなどの摂取量が最多だからです。

1日所要量を下回る栄養素はどの食事パターンでも共通しているので、アメリカ政府は栄養教育プログラムや食品への強化(注3)などの方法で、不足を補うよう長年試みてきています。

(注3)ヨウ素を添加した食塩、ビタミンAやビタミンDを強化した牛乳、ビタミンBや鉄を強化した穀物など。

プラントベースの食事やプラントベースの強化食品(注4)を食事に含めるよう栄養教育を充実させることもまた、プラントベースの食事をする人にとって不足を補うのに役立ちます。

(注4)乳製品を含まないプラントミルクに、ビタミンB12やカルシウムを添加したり、プラントベースのタンパク質に、ビタミンB12、鉄、亜鉛などを添加した食品。

「食品への強化」は北米ではヨーロッパよりもよく行なわれていることなので、それがアメリカとヨーロッパ各国の栄養摂取量の相違に反映しています。

すでに見てきたように、アメリカでの研究がビタミンDを除きどのグループでも栄養上の不足はないことを明らかにしていますが、ヨーロッパ各国の研究では、ヴィーガンは、国によって多少の相違はあるものの、ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム、ヨウ素、亜鉛、セレニウムなどの不足が指摘されています。これらの栄養素はいずれも強化食品やサプリメントで補うことができるものです。

これでおわかりのように、十分に考慮されたプラントベースの食事は、質の点で最もすぐれており、ライフスタイルのどの段階にあっても適切だといえます。

(文責:松田麻美子)