2022年6月のメッセージ

Hello from Mamiko Matsuda, Ph.D. in Houston June 2022

日本のみなさん、こんにちは。

前回は「自然と調和した生き方をすれば健康が保たれ、病気は防げる」というナチュラル・ハイジーンの教えをご紹介し、「自然と調和した生き方・食べ方をしている自然界の動物たちは、年をとっても健康に天寿を全うしていく」ということを述べました。

さて、それではほかの動物たちと比較して、私たち人間はどうでしょうか。「自然と調和した生き方」をしているのでしょうか。ホモサピエンスとしての人間の体にとってふさわしい食べ物を食べているのでしょうか。

下の画像をご覧ください。みなさんはこれを見て、どう思われますか。

誰が見てもこの画像は奇異に映るに違いありません。でも、英語で「Cut Out the Middleman(中間業者を介さずにカットして牛乳を飲む場合の光景、の意)」とキャプションが添えられているように、私たちはこのようにして牛乳にアクセスしているのです。

爆笑を誘うような画像ですが、牛乳を飲むということはこういうことなのです。

実際には、牧場に行って牛の下に潜り込み、牛のお乳に吸い付いて牛乳を飲むようなことを私たちはしません。このようなことをするのは「牛の赤ちゃん」だけです。

私たちが牛乳を飲むには、酪農家が牛の乳を搾り、乳業会社がそれを買い上げて殺菌しカートンに詰め、さらに輸送業者が小売業者に輸送し小売業者から購入する、というプロセスを踏みます。

日本では今でも多くの人が、「牛乳は自然が与えてくれた完全食品」と思っています。でも、ちょっと考えてみてください。

そもそも、牛のミルク(すなわち牛乳)は、「牛」という動物種族のミルクであって、私たち人類のミルクではありません。この地球上で、自分たちとは異なる動物種族のミルクを飲んでいるのは、人間と人間に飼育されている動物だけです。

自然界にいる動物の世界では、キリンの赤ちゃんはキリンのミルクしか飲みません。キリンの子が象やシマウマのミルクを飲むようなことはないのです。しかも、歯が生え揃い、自分の歯で食べ物が食べられるようになると、彼らは乳離れしていき、もう親のミルクを飲むようなことはありません。

牛のミルクは「牛の赤ちゃん」のための食べ物です。生まれた子牛の体重(32~45キロ)を1年で10~14倍の、およそ450キロもの巨体に成長させるために必要な要素であるミルクタンパク「カゼイン」や「IGF-1」(インスリン様成長因子)などの成長ホルモンが、人間の母乳よりずっと多く含まれています。

では、ロケット燃料のような栄養が詰まっている牛のミルクを、人間の赤ちゃんが飲むとどうなるでしょうか。

赤ちゃんの発育は親の願いどおりにスクスクと育ち、見る見るうちに大きく成長していきます。今の若者たちの身長は、昭和20年代と比較するだけでも明らかなように、欧米人に引けを取らないくらい伸びています。

アメリカ人のように背が高くなりたかったら、せっせと牛乳を飲むこと──私を含め団塊世代の人たちは、「牛乳を飲むと、アメリカ人のように大きくなれる」と学校で教えられ、学校給食で強制的に脱脂粉乳や牛乳を飲まされて育ってきました。

こうして育った子供たちは、やがて肥満、病気(特に喘息、アトピー性皮膚疾患、ジンマシン、子供の便秘、中耳炎、花粉症、自閉症、1型糖尿病など)のようなトラブルを抱えることになります。

成熟を早め、初潮年齢を低下させ、いずれは骨減少症、骨粗鬆症、そして、前立腺ガン(男性の場合)や乳ガン(女性の場合)、直腸ガン、心血管疾患、関節リウマチ、白内障などのリスクをも高めていくことになります。

「背が早く伸びるように」と願って我が子に牛乳や乳製品を与えることは、喘息やアトピーほか、子供特有の病気へと導くばかりか、骨を減らし脆くし、やがて中高年になると、ガン・心血管疾患・関節リウマチなどで苦しむような大人へと育てていくことになるのです。

こうした病気は牛乳摂取の習慣が定着したこの60年余りの間に激増した病気なのです。

1976年以来、私はずっとアメリカで暮らしていますが、アメリカ人が牛乳やアイスクリーム、チーズなどを日本人の何倍もとっているにもかかわらず、骨折が多く、ギプスをつけている子供や学生たちが日本よりずっとたくさんいることを長い間不思議に思っていました。でも、今ではその理由がよくわかります。

牛乳を飲めば飲むほど、チーズを食べれば食べるほど、骨の組織は失われ、骨折や骨減少症、骨粗鬆症などのリスクが高まっていくのです。

実際、ハーバード大学が12年間にわたって78,000人の女性を対象に行なった調査(2004年発表)では、牛乳を1日3回飲む人はほとんど飲まない女性よりも骨折が多かった、と記しています(U.S. Department of Health and Human Services. Bone Health and Osteoporosis: A Report of the Surgeon General. Rockville, MD: U.S. Department of Health and Human Services, Office of the Surgeon General; 2004.)。

同様に、オーストラリアのシドニーで高齢男女を対象に行なった1994年の調査では、乳製品の消費が多い人ほど骨折のリスクが高いことが示されています。乳製品の摂取量が最も多い人は、最も少ない人に比べて股関節骨折のリスクが約2倍にもなります( American Journal of Clinical Nutrition. 2003;77(2):504-511.)。

肉・魚・卵・乳・乳製品などの動物性タンパク質は酸性食品(※)なので、もともと弱アルカリ性である人体にとって、必要以上のタンパク質(摂取カロリーの10%)を摂取すると、人体は弱アルカリ性の状態を保つため、骨からアルカリ性のカルシウムを引き出して中和させ、尿としての排出を促す傾向があります。
(※) 消化の最終産物が酸性となる食品のこと。

牛乳にはかなりのタンパク質が含まれています。牛乳に含まれるタンパク質量は、通常総カロリーの19.7%、プロセスチーズは26.8%、無脂肪乳は41.2%あります。ちなみにサーロインステーキ(赤身)のタンパク質量は21.6%です。

牛乳は肉類、塩、砂糖、精製穀物などと並んで、カルシウム泥棒なのです。ですから、骨を丈夫にするために乳類を摂取すればするほど、骨は失われていきます。

さらに、「牛乳・乳製品の摂取が増えれば増えるほど、前立腺ガンのリスクが上昇します。過剰なカルシウムの摂取が、前立腺の健康に不可欠なビタミンDの活動を阻止してしまう傾向があり、牛乳・乳製品に豊富に含まれるIGF-1が腫瘍の増殖を促進するためだ、と研究者たちは見ています(International Journal of Cancer 2007;120:2466-2473.)。

もうおわかりかと思いますが、私たち人類が牛乳および牛以外の動物のミルクを飲むことは自然と調和していないため、健康維持や病気予防には役立たないのです。

牛乳に関するさらに詳しい情報は、拙著『子供たちは何を食べればいいのか』(グスコー出版)で、27ページにわたって記しています(amazon、楽天ブックスで電子版が発売中です)。 

(文責:松田麻美子)