【特別寄稿】『長寿の嘘』(柴田博・著)の嘘を暴く

鶴見隆史(医師。鶴見クリニック院長)

『長寿の嘘』(柴田博・著)という本が最近、ブックマン社から発売されました。著者の肩書きは「医学博士」となっています。

この本の帯には「本当は肉食・小太りの人がいちばん長生きだった!」というコピーが大きく書かれ、「メタボ上等!」、そして「コレステロールは低いほういい。魚は良くて肉はダメ?  卵は1日1個まで。BMI22が理想的・・・全部、嘘でした。」「間違いだらけの長寿・健康学にメスを入れる、医学博士渾身の一冊。真のエビデンスに基づいた、長生きの新常識とは?」と記されています。

↑『長寿の嘘』ブックカバー  ↑同書、裏表紙(ブックカバー表4)

本文には「卵は5個食べても血中コレステロールは上がらない」「卵はそれ自体がやがて生体になっていくわけであり、バランスの良い栄養構成で、しかも消化が良く消化吸収能力の低下した高齢者や病人に適した食品」といったことが書かれています。

さらに、「ある群馬県の山中の長寿者の男性は100歳になっても富士登山を続け毎日7個の卵を食べていた」という実例も紹介されていて、肉に関しては「人類は本質的に肉食であるからこそ、移住が可能だった」「草木の生えないグリーンランド、北カナダ、アラスカ、シベリアに移住出来たのは肉食だったおかげ」と主張しています。

本文中には【低栄養予防のための食生活指針14ヶ条】と題された表も掲載されていて、次のように書かれています。

① 3食バランスよくとる
② 動物性タンパク質を十分にとる
③ 魚と肉の摂取は1対1の割合に
④ さまざまな種類の肉を食べる
⑤ 油脂類を十分に摂取する
⑥ 牛乳を毎日飲む
⑦ 緑黄色野菜や根菜など多種の野菜を食べる。火を通し、量を確保。果物を適量とる
⑧ 食欲がないときは、おかずを先に食べ、ご飯を残す
⑨ 調理法や保存法に習熟する
⑩ 酢、香辛料、香味野菜を十分にとり入れる
⑪ 和風、中華、洋風とさまざまな料理をとり入れる
⑫ 共食の機会を豊富につくる
⑬ 噛む力を維持するため、義歯は定期的に検査を受ける
⑭ 健康情報を積極的にとり入れる

本の内容紹介が長くなりましたが、以上のように、この本には私や松田麻美子先生が日頃から述べていることとは、一部を除いて、まるで正反対のことが書かれています。

一読後、私がまず疑問に思ったことは、著者はこのような栄養指導を普及させていて本当に世の中の人の健康のために貢献しているのだろうか、ということでした。

臨床医としての私の経験から、鶏卵を多く食している人は心筋梗塞か狭心症になっている確率が非常に高いという事実があります。鶏卵の白身にあるオボムチンというタンパク質が原因です。問題はコレステロールばかりにあるわけではありません。

『長寿の嘘』の著者は、「菜食主義者は早死にする」「肉を食べないと長生きできない」などという見出しとともに、あたかも70歳以上の長命者はだれもが肉や鶏卵を中心にした食事をしている人ばかりのような書き方をしていますが、私の40年以上にわたる臨床経験からも、そうした実感は全くありません。

肉や牛乳や鶏卵中心の食生活なら、腸の腐敗と動脈硬化で長生きは到底望めません。ガンをわずらって私のクリニックに来院される患者さんで、快復に向かうのは栄養指導によって動物性食品を口にしなくなった人ばかりです。

例外はあるにしても、実際に長寿者で肉を食べる人は本当は少ないのです。もし、そうした百寿者(100歳以上の人)がいたとしても、「毎日、肉食」ではないでしょうし、量的に多くはないはずです。本の中に一日に食べる肉の目安の量が記されてはいますが、高齢の実践者の実例が記されているわけではありません。

『長寿の嘘』のカバーや帯には著者の名前と一緒に「医学博士」の文字が添えられていますが、そもそも著者は実際に臨床の立場で、どのくらいの期間、どれくらい多くの患者さんと対峙されていたのでしょうか。本書には「肉食で病気が治った」といった症例は全く書かれていません。

「野菜は羊が食べるものであって人間の食べ物ではない」という思想を持つ中央アジアの「カザフ族」の寿命は、50歳が上限で、消化器系のガンや脳卒中・心臓病のため、30歳くらいまでしか生きられない、と言われています。

今世紀になってからも、肉(Meat)と卵(Egg)とチーズ(Cheese)の頭文字をとった「MEC食」で健康になれると主張していた医師がいたり、「アトキンス・ダイエット」などがブームになったりしていましたが、これらの健康法は一時的に成果が出たとしても、その後の悲惨な結末は多くの人が知るところです。

例えば、「子宮体部ガン」に最も関係の深い食品は何か。「食品摂取量と子宮体部ガンの関係」を世界42か国で調査してみた結果、全年齢を通じて「チーズ、ミルク、肉、卵」という動物性食品であり、重回帰分析という手法を用いて「子宮体部ガン」の発生に最も寄与している食品を調べたところ、結果は「牛乳とチーズ」というものでした。当然ながら、牛乳消費量の多い国には「子宮体部ガン」が多発しています。

『長寿の嘘』の著者が、著書で統計上のことを持ち出して自らの考えを主張するのは当然のことですが、上記のような肉食や乳製品の弊害が証明されている資料や都合の悪い統計を無視するような論評は牽強付会(都合のいいこじつけ)と言われても仕方ない、と思います。

「医師が言ったから正しい」などとは決して思わないでください。真実は何か。食べ物によって、どのように体と心が変わってくるのか、どうかご自身の体と心で「真実」を確かめてみてください。

『長寿の嘘』のカバー袖には16行にわたり著者のプロフィールがくわしく記載されています。そこには記されていませんが、著者・柴田博氏には、「公益財団法人 日本食肉消費総合センター理事」という肩書きがあります。

※松田麻美子先生(10月中旬来日予定)と鶴見隆史先生との合同講演会が予定されています。詳細は、こちらをご覧ください。→(https://immunocasa.co.jp/news/2018/05/23/583